2012年01月17日

シンドロームE 上下 フランク・ティリエ著/平岡敦訳 早川書房





goods_026.gif フランク・ティリエ著。

タルタロスの審問官』『七匹の蛾が鳴く』のシャルコ警視。『死者の部屋』のリューシー警部補。二人の主人公が同じ一つの事件を追う、ファンには嬉しい展開の本書。

恐ろしい死体が五体、発見される。それらはいずれも、脳と眼球が取り出された後埋められていた。ファルコは事件の調査に取り掛かる。同じ頃、女性警部補リューシーもまた異様な事件に鼻先をつきつけている。かつて出会い系サイトで知り合い、一時は恋人だった男が失明したのだ。彼は映画のコレクターで、広告を見て亡くなった収集家のコレクションから幾つかのフィルムを買いつけた。その中のひとつ、ラベルのない謎のフィルムを見た直後、失明してしまったのだった…。一見無関係に見える二つの事件が緩やかに絡まりあい、やがて一つの方向を指し示す──。

今回は、個人的には悪くない読了感でした。
シャルコとリューシーが出会い、行動を共にするという展開も良かったと思います。
良くも悪くも地に足のついたタイプの筋立てで、滅茶苦茶な猟奇的殺人かと思いきや、実は…という、納得のいく内容となっています。
全体的に「奇をてらわず・大きく出て行こうとせず」の手堅いストーリーなので、万人向けではないかなとも思います。
今回の事件はきちんと終わりますが、巻末は次の事件を明示する「続く」モードで幕引きとなります。
その「続き」部分も翻訳版が発刊予定とのことですので、楽しみに待ちたいと思います。
posted by ウサミ at 17:14 | Comment(0) | TrackBack(0) | |

タイに渡った鑑識捜査官 戸島国雄 並木書房



goods_026.gif 戸島国雄著。ノンフィクション。

元自衛官、元警視庁鑑識課勤務という経歴をもつ著者。退職後に単身タイに渡り、キャリアを活かして現地の警察とともに過ごした日々を綴ったレポート。

民間人が通常知ることのない「警察の話」。
日本人としては未知の「タイ国やタイ人の話」。
さらに、ちょっと変わった持ち味のある「個性的な著者の話」。
以上三つの要素が入り混じり、なかなか興味深く、面白い内容になっています。

タイ国が甚大な被害を受けたスマトラ島沖地震の折、著者はタイに在職中で、その時の現場の内容なども記されています。同じ「桁外れの津波による被害」ということで東日本の津波を連想させるところも多く、被害者の姿に日本を重ねて二十の痛ましさを感じるところもありました。

読みやすく、未知の世界をのぞき見るような部分も多く、味わい深い一冊でした。


goods_129.gif 死体と働く
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2012年01月01日

2011年読了本ランキング

posted by ウサミ at 18:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | |

2011年12月31日

エージェント6 上下 "Agent 6" トム・ロブ・スミス著/田口俊樹訳 新潮社




goods_026.gif トム・ロブ スミス著。

『チャイルド44』

『グラーグ57』

と続いてきた三部作、堂々の完結編。

秘密警察を辞したレオ・デミドフ。彼はいま、愛する妻ライーサ、養女としたゾーヤ・エレナと共に、民間人としてのつましい日々を過ごしている。そんな一家に、小さな異変が起こった。ニューヨークでの国際交流イベントの参加者と集団の引率者として、レオの妻と子らが抜擢されたのだった。妻子のアメリカ行に強い不安と戸惑いを感じながらも、レオは彼女たちを送り出す。しかしその後、アメリカではレオを絶望の淵に突き落とす、悲劇的な事件が起こってしまう…。

というところから始まる、三部作の最終話です。

数奇な運命を辿ったレオの人生を見つめ続けることで、読者は彼とともに激動のソヴィエト連邦の歴史を目の当たりにすることになります。

巨大で重たい題材を良くこれだけ料理してみせたなぁと感心することしきり、です。

歴史という膨大な流れを捉えようとすれば、その中での一人一人の人間という小さな存在にまでフォーカスしていくのは難しいことでしょう。しかしながら本書では、歴史の大きなうねりを力強く描き出しながらも、同時にレオや周辺の人々の人生をきちんと浮き彫りにしてみせています。

ひとつの作品の中で時が激しく移り変わり、登場人物たちの境遇や舞台設定もめまぐるしく変わってゆく。「個人」を照射しながらそのことによって結果的に「世界と歴史」の全体図をも描き出す、非常に興味深い書き方であると感じました。

激動の人生を送ったレオを主役に据えた本シリーズは、これで終了となります。
歴史は繰り返し、これからも多くの場所、多くの国々にさまざまな時期のレオが存在し、ライーサが、ゾーヤやエレナが存在してゆく。
冒頭の、痛ましい茶番劇とでもいうべき嘘で塗り固めた大国の姿に、私は日本のすぐ傍にある某国の姿を重ねました。

沢山の過去と未来の「可能性」が織り込まれた本書は、楽しみながらも色々なことを考えさせられる作品でした。
タグ:海外の小説
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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い "Extremely Loud and Incredibly Close" ジョナサン・サフラン・フォア著/近藤隆文訳 NHK出版




goods_026.gif ジョナサン・サフラン・フォア初読。

宝石店主トーマス・シェルは9・11の自爆テロ攻撃で命を落とした。残されたのは、まだ少年の、一人息子オスカー。母親は、早くも別の男との仲むつまじい姿を彼にみせている。オスカーはこれからの人生を何とか続けてゆくため、懸命に"踏みとどまろう"と努めている。やがて彼は、父親の荷物のなかから見慣れぬ一本の鍵を見つけ出す。心当たりすべての鍵穴を試したその後に、彼は鍵の謎を解き明かすことを決意する…。

ある意味では9・11と残された遺族を題材にした物語であるともいえますが、むしろ本書はひとつの血族(三世代にわたる男女)をまるごと描き出すものです。
時代が変わり、国が変わっても、人間が行う殺戮という蛮行そのものは変わらない。
そのなかで心に深い傷を負い、懸命にあがきながら生きようとあえぐ、生まじめで善良で、そして不器用な人々。
そういったある意味普遍的な意味をもつ人々の姿が、本書の中で生き生きと立ち上がります。

本書では視覚的な手法をうまくとりいれており、単純に目新しさだけを追い求めたものとは一線を画す、味わい深さを備えています。

「旬の素材の9・11」だとか「どう考えても可哀想な少年」だとかいった悪い意味での「あざとさ」はまったく感じられず、「普遍的に続く暴力」により、いかに多くの「誰かにとっての大切な誰か」が命を奪われ、それによる悲しい連鎖が起こるのか。そういった事実を、ひたむきに浮き彫りにしています。
そうは言っても眉間にしわをつくりながら読むような陰鬱な作風とはまったく異なり、主な話者であるオスカーのエキセントリックでユーモラスな視点と語り口は読み手を楽しませてくれます。
「本当に説明がうまい人は、難しいことを簡単な言葉で語る」というのと似通っており、本書は気取らず、とっつきやすく、それでいて非常に真摯に「残酷な現実」と向き合っています。

良書に出会えてよかったと思います。
タグ:海外の小説
posted by ウサミ at 15:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | |